潮風に塩の香りが混じる小舟の上で、ペテロは古い網の修繕をしていた。手のひらの皺の奥まで染み込んだ塩と魚の気配。東からの風が、ガリラヤ湖のそれとは違う、広く荒々しい海の息吹を運んでくる。彼は目を細め、遠く水平線を眺めた。もうすぐ日が沈む。西の空は、まだ輝きを失っていないが、底に鈍い鉛色が忍び寄っていた。
「ペテロさん、その話、もう一度聞かせてください。」
若い男が近づき、舟縁に腰を下ろした。エウロクラトンと言ったか。アテネから来た、頭でっかちな青年だ。彼の目は、老いた漁師の手元ではなく、その口元を探っている。知識欲、それとも不安からか。ペテロはゆっくりと糸を通し、結び目を締めた。
「どれの話だね。」
「万物が焼き尽くされる日のことです。」
ペテロは手を止めた。海面に散らばる最後の光が、網の目を金縁に浮かび上がらせた。彼は深く、潮汐のようなため息をついた。あの日の主の言葉、そして復活した主が昇天されるときの雲の白さが、まぶたの裏によみがえる。それから数十年。待ち続けた。待ちながら、この手で多くの手紙を書いた。
「ああ、そのことか。」彼の声は波のざわめきに溶け込みそうな低さだった。「人々は忘れていく。意図的に忘れる者もいれば、ただの忙しさに流される者もいる。『父の約束』など、どこか遠い世界の話だと。」
風が少し強くなった。小舟が軋む。
「彼らはこう言う。『万物は天地創造の初めから今まで、ずっと同じままではないか』と。」ペテロの口調に、少しだけ苛立ちが滲んだ。それは教師としてのそれではなく、証人としての焦りに近い。「だが、彼らはわざと見ないのだ。かつての世は、水によって滅ぼされた。あのノアの洪水を。その同じみ言葉によって、今の天と地は、火に焼かれる日まで、同じみ言葉によって保たれている。『主の日』は、盗人のように来る。予告はある。繰り返し、繰り返し、預言者を通し、主ご自身を通し、そして私たち使徒を通して語られてきた。それでも、それは人々が『平和だ、安全だ』と言い張るその瞬間に、突然として。」
エウロクラトンが身を乗り出した。「では、なぜまだ来ないのですか? あなたが語り、パウロが書き、皆が待っているのに。主は遅れている、とあざ笑う者さえいます。」
ペテロはゆっくりと青年を見た。その目は、長年の漁で曇り、しかし奥底には消えない火が灯っていた。
「遅れていると考えるな。愛する者よ。」彼は言った。網から手を離し、両手をひざの上に載せた。指の関節は大きく、変形していた。「それは、主が約束を怠っているのではない。むしろ、あなたがたに対して忍耐深くおられるのだ。ひとりでも滅びることを望まず、すべての者が悔い改めに進むことを望んでおられる。」
沈黙が流れた。波の音だけが、時を刻む。
「だが、その日は必ず来る。」ペテロの声は再び力を持った。「『主の日』は、炉のように燃えながら来る。天は轟然と消え去り、天体は焼け尽き、地とその中に造られたもろもろの働きは、全て暴かれる。」
彼は空を見上げた。最初の星が一つ、かすかに瞬いていた。
「全てが焼き尽くされるなら、私たちはどうすれば?」青年の声が震えた。ようやく、頭の知識が腹に落ち始めたのだ。
ペテロの顔に、初めて穏やかだが深い皺が寄った。笑いに近い。
「それだから、愛する者たちよ。」彼はもう、青年だけに話しているのではなかった。アジアに、ガラテヤに、ローマに、そしてまだ見ぬ遠くの地に散らされた、すべての兄弟姉妹に向けて語っているようだった。「あなたがたは、どんな人であるべきか。神の日の来るのを待ち望み、それによって天が燃え尽き、地とその上のものはみな、焼き尽くされると知りながら、聖なる生き方、敬虔な生き方をしなければならない。新しい天と新しい地を、私たちは約束によって待ち望んでいる。そこでは、義が住んでいるのだ。」
彼は再び網を取り上げ、手のひらでこすった。粗く、しかし確かな感触。
「だから、この事を待ち望みながら、主の前に、しみも傷もない者として、平和をもって見いだされるように励みなさい。私たちの主の寛容は救いの機会なのだ。それは、パウロ兄弟も、その知恵を与えられて、あなたがたに書き送った通り。」
ペテロは立ち上がった。足元が少し揺れる。年だ。しかし、背筋は伸びていた。
「ただ、気をつけよ。無学で心の定まらない者たちが、聖書の他の個所を曲解するように、これらの手紙をも曲解し、自分自身を滅びに至らせる。だから、あなたがたは、あらかじめこのことを知って、悪者どもの迷いに誘い込まれて、あなたがた自身の確かな立場を失うことのないようにしなさい。」
風が変わった。岸から焚き火の煙の匂いが漂ってくる。夜の漁の準備だ。
「さて、私はもうすぐこの幕屋を脱がなければならない。私たちの主イエス・キリストが示してくださったように。私は、これらのことを繰り返し思い起こさせることを、怠ってはならない。それが、私に残された務めだ。」
エウロクラトンは何も言わず、ただうなずいた。彼の目には、先ほどの焦りや知識欲ではなく、静かな決意のようなものが浮かんでいた。ペテロはそれを見て、満足そうに小さく頷いた。
西の空の最後の光が消え、星々が続々とその座を占め始めた。天は古いが、その輝きは新しい。ペテロはゆっくりと岸に向けて櫂を漕ぎ始めた。一漕ぎごとに、老いた肩に痛みが走る。それでも、その動きには確かなリズムがあった。待つことと、働くことの、漁師としてのリズム。
舟が岸に着く。遠くで、新しい時代を生きる若者たちの笑い声が聞こえる。ペテロは舟を繋ぎながら、もう一度空を見上げた。
「主イエスよ。栄光も、今も、そして永遠に。アーメン。」
彼の呟きは、打ち寄せる波の音に消えた。しかし、彼が生き、書き、語り続けた言葉は、これからも、この荒々しくも愛に満ちた世界を、静かに、確かに保ち続けるのだろう。新しい天と新しい地が約束されるその日まで。




