壁ができ上がってからも、エルサレムの内側は、驚くほど静かだった。再建の歓声が引いた後の町は、広すぎるほどに感じられ、石造りの家々の間を吹き抜ける風の音ばかりが目立った。ネヘミヤの言葉は確かに私たちの胸に刻まれていた。「聖なる都には、命が溢れていなければならない」。そう、主のための場所は、単なる城壁や門の集合ではなかった。人が住み、祈り、働くことによって初めて、その場所は意味を持つ。
くじ引きの日は、朝から重い空気が流れていた。水門の前の広場には、ユダの氏族から選ばれた代表たちが集まっている。私は妻のルツと、幼い二人の息子を連れて、人々の輪の外れに立っていた。くじは公平な方法だった。だが、その公平さがかえって私たちの胸を締め付けた。十分の一。十家族のうち一家族が、今の土地を離れ、エルサレムの内側に住むことを運命づけられる。農地も畑も、慣れ親しんだ橄欖の木も全て置いて。
祭司エリヤシブの息子、ヨイアダの声が朗々と響いた。皮製の袋が揺れ、木札が擦れる音。名前が呼ばれる。次に。そしてまた次に。息子の一人が私の裾を強く握った。振り向くと、彼は目を大きく見開き、何も言わずにじっと私の顔を見つめていた。彼の小さな手の温もりが、私の緊張を少しだけ和らげた。
「エルアザル。ユダ族、ペレツの子孫。」
自分の名が呼ばれた時、私はなぜか深く息を吸った。周囲からはため息とも、安堵の吐息とも取れる音が漏れた。隣にいたルツの手が、そっと私の腕に触れた。その手は冷たかった。私は前へ進み出た。ヨイアダが私の手に小さな木片を置く。そこには、ヘブル文字で「エルサレム」と刻まれていた。運命は決まった。
帰りの道では、家族は沈黙していた。ようやく末の子が「お父さん、エルサレムって暗いの?」と聞いた。私はどう答えればいいのかわからなかった。確かに、今のエルサレムは人影まばらで、再建作業の傷痕も生々しい。だが、ネヘミヤの目は常に未来を見ていた。「いいや、暗くはない」と私は言った。「新しい家が建ち、子どもたちの声で溢れる町になる。主が私たちをそこに招いているのだ。」
引っ越しの準備は慌ただしかった。隣人たちが野菜や小麦の粉を分けてくれた。年老いたヨナタンは、私の肩を叩きながら「お前の畑は、お前が戻ってくるまで、この手で守っておくよ」と嗄れ声で言った。その言葉に、私は初めて胸が熱くなるのを感じた。離れることは、全てを失うことではなかった。
荷車を引いてオリーブの丘を登り、エルサレムの門をくぐったのは、盛夏の眩しい日だった。城壁の影がひんやりとした道を作り、足音が反響する。割り当てられた家は、第二地区と呼ばれる一画にあった。壁は新しい漆喰の匂いを放ち、床にはまだ土の感触が残っている。狭いと言えば狭い。窓から見えるのは、向かいの家の壁だけだ。しかし、その窓枠にルツがさっそく布切れを掛け始めた時、この無機質な空間が、少しずつ「家」に変わっていく予感がした。
日々は、隣人を知ることから始まった。私たちの地区には、同じくくじで選ばれたユダ族やベニヤミン族が住んでいた。向かいは剣作りに長けたセラヤの一家。彼は無口だが、夜な夜な響く金属を打つ音が、むしろ安心感をもたらした。路地を隔てた家には、祭司の家系の一人、マアセヤがいた。彼はまだ若く、神殿での務めに毎日顔を紅潮させて出かけていった。彼からは、神殿の丘から聞こえるレビ人の歌う賛美の調べを、時折、風に乗って聞くことができた。
最も印象的だったのは、ベニヤミン族の長老、シュルという男だ。頬に深い傷跡を持ち、かつての戦いの記憶を体に刻んでいた。彼は毎朝、城壁の上を歩き、町全体を見渡すことを日課にしていた。「見ろ、エルアザル」とある日、彼は私を壁の上に招き、町を指さした。「あの角の家には、献身を志す者がいる。あの広場では、商人が品物を広げ始めた。煙突から煙が立つ家が、先週より三つ増えている。」
彼の指さす先を見ていると、確かに町に色が付き始めているのがわかった。最初は義務と覚悟で始まったこの移住が、少しずつ、それぞれの家族の生活の匂いを発し始めていた。ある家からはパンを焼く香ばしい匂いが漂い、別の家からは子供たちの讃美を覚えようとする無邪気な歌声が聞こえる。
困難もなかったわけではない。エルサレムの内側には耕せる土地がほとんどない。周囲の村から食料を運ぶにも労力が要る。ある雨の続く日、小麦の粉が底を突き、幼い息子が空腹で泣き出した時、私は初めてこの決断を疑った。しかし、その翌朝、戸口に小さな麻袋が置かれていた。中には干しいちじくと堅パンが入っている。差出人不明。その無言の施しに、私は顔を覆った。ここには、目に見えない共同体が育ち始めていた。祭司やレビ人たちが律法を教え、人々が互いの必要を、時に言葉なく、満たし合おうとしていた。
安息日には、地区の人々が集まって、簡素な集会を持った。正式な礼拝は神殿で行われるが、私たちはそれぞれの家の前で、詩篇を朗誦し、主を賛美した。マアセヤが幼い子どもたちに創世記の物語を語るのを、大人たちも囲んで聞いた。彼の語り口は拙かったが、その真剣さが、かえって言葉に重みを与えた。
月日が経ち、私はシュルと共に壁の上を歩くのを習慣にした。ある夕暮れ、西の空が茜色に染まる頃、彼が足を止めて言った。「ネヘミヤは正しかった。城壁は石でできているが、町を守るのは、結局はここに住む一人一人の覚悟なのだ。」彼は黙り、遠くに見えるヨルダンの谷間に目を細めた。「くじに当たった時は、不運だと思った。だが今は思う。これはくじなどではない。主が私に与えた、もう一つの戦場なのだと。」
私は彼の横顔を見た。傷跡が夕陽を受けて赤く浮かび上がっている。この町には、様々な物語を背負った人々が集められていた。祭司も、戦士も、農民も、工匠も。それぞれが自分の過去を引きずりながら、しかし、ここではただ「エルサレムの住民」という一つの民として、新しい歴史を一歩ずつ刻んでいた。
最初はがらんどうだった広場に、今では井戸端会議が絶えない。子どもたちの遊ぶ声が路地に響く。神殿からは絶えることなく香の煙が立ち上り、レビ人の歌は町の隅々まで届くようになった。私は、あの日くじを引いた時の冷たい木片の感触を今でも覚えている。あの小さな木切れが、単なる偶然の結果ではなく、大きな物語の中の、私という一点を定めるものだったのだと、今は理解できる。
主はご自身の都を、単なる象徴として放置されはしなかった。そこに命を吹き込むため、私たちのような、名もなき者たちを呼び集められた。戸籍に記される名前の一つ一つが、生きた呼吸を持ち、喜びと苦労を紡いでいく。壁は完成したが、町はまだ完成していない。いや、人が主と共に住む限り、完成というものはないのかもしれない。ただ、日々、主の律法に耳を傾け、隣人と共に歩みながら、この土地を聖なるものに近づけていく営みが、ここには確かに息づいている。そう思うと、この狭い家も、向かいの壁しか見えない窓も、全てが尊い約束の一部に思えてくるのだった。




