聖書

勝利の賛歌

戦いは終わった。

夕靄が血と埃の匂いを帯びた平原を覆い始めていた。ダビデは、まだ鎧の重みを肩に感じながら、静まり返った丘の上に立っていた。足元には、敵の王冠が砕けた破片が転がっている。太陽は地平線に沈みかけ、長い影を引き延ばしていた。彼は深く息を吸い、冷たい空気が肺を刺した。勝利。その言葉は、思いのほか重かった。

陣営に戻る道すがら、彼の心には一つの旋律が蠢いていた。それは、戦いの最中、矛を振るう腕が熱くなった時に、鼓動と共に鳴り響いていたリズムのようなものだった。テントに入り、革の鎧を解き捨てると、ようやく疲労が全身に押し寄せた。しかし、眠気はなかった。むしろ、ある熱い、鎮まらないものが胸の内で燃え上がっていた。

彼は羊皮紙を広げ、油灯の仄暗い光の中、葦ペンを取った。インク壺の蓋を開ける音だけが、夜の静寂を破った。

「主よ。王はあなたの力によって喜び祝います。」

ペン先が走り出す。言葉は、まるで湧き出る泉のようだった。あの戦場での恐怖、そしてそれらを凌駕する確信。敵の戦車が雷鳴のごとく迫り来た時、彼は本能的に口をついて出た祈りを思い出す。「どうか、わたしの願いを聞き入れ、わたしの叫びをお聞きください。」それは、王としての威厳をかなぐり捨てた、剥き出しの慟哭に近いものだった。

そして、応答があった。そう、感じたのだ。具体的な声ではない。しかし、突如として心を満たした、揺るぎない平穏。それは、父の家の羊飼いであった少年時代、獅子や熊から群れを守った時に感じたあの確信とよく似ていた。あの時と同じく、彼の腕を動かしたのは、己の力ではなかった。

「あなたは彼に心の願いを賜り、その唇の求めを拒まれなかった。」

ペンの動きが速くなる。戦いの前夜、彼は何を願ったか。富でもなければ、さらなる栄光でもなかった。ただ、この民を守り抜くこと。約束の地を、揺るぎないものとすること。そして、自分を油注がれた者として選び、羊飼いから王座へと導いてくださった方の御名が、あがめられますように。その願いが、通り過ぎていく風のように、確かに聞き届けられた気がしたのだ。

彼は筆を止め、テントの入口から覗く星空を見上げた。無数の光が瞬いている。父祖アブラハムに約束された星のようだ。神は、彼に「長い命」を約束してくださった。それは単に年月を指すのではあるまい。今、この勝利の只中に感じるこの充実感、この広がりゆく希望こそが、約束の前触れなのだ。確かに、王座は堅く立てられた。しかし、それ以上に、彼の内側に、朽ちることのない「栄光と威光」が与えられたような気がしていた。それは、周囲の誰もが認める勝利の輝きとは少し違う。燈火のように、内から静かに、しかし確かに照らし出す光だ。

「彼はあなたによって、とこしえに望みをおき、いと高き者の御前の喜びに、いまもあえいでいる。」

あえぐ。苦しみながら呼吸をする、その言葉を彼は選んだ。この喜びは、安楽から生まれるものではない。戦いの只中で、恐怖と信仰の間で喘ぎながら、つかみ取ったものだ。神の御前での喜びとは、そういうものなのだろう。全てが整えられた楽園での微笑みではなく、塵と汗にまみれたこの現実の只中で、それでもなお「あなたがおられる」と信じる時に沸き起こる、渇きを癒す泉のようなもの。

やがて、思考は必然的に敵の運命へと向かう。彼らの滅びは、自らの手によるものではない。彼らの罠、彼らの悪だくみは、まるで蜘蛛の糸が風に吹かれるかのように、いとも簡単に散り散りになった。それは、自分が強いからではない。彼らが、「主を避けようとする」者たちであったからだ。彼らの憎悪は、神に向けられていた。自分は、ただその盾にすぎなかった。彼は、その事実を思うと、誇りではなく、厳かな畏れに似た感情に包まれた。

「あなたは彼らを火の燃える炉の中に投げ込まれます。主は怒りをもって彼らをのみつくし、火が彼らを焼き尽くします。」

描写は厳しい。しかし、そこには、悪が最終的に根絶やしにされるという、残酷さを超えた確信がある。正義が曇りなきものとして現れる日への確信。彼は、自らがその審判の器ではないことを知っている。ただ、見守る者だ。そして、その審きが下る時、地のすべての民は、その計り知れない力を知るだろう。

最後に、彼はペンを振るい、全体を貫く主題を書き記す。

「主よ、あなたの力によって、われらは威光を現します。われらはとこしえに、あなたの力により、歌い、ほめ歌をうたいます。」

書き終えた時、夜はすっかり更けていた。油灯の炎が、揺らめいている。遠くで、見張りの兵士が交代する声が聞こえる。平和な音だ。

ダビデは羊皮紙を捲り、そっと胸に押し当てた。これは記録ではない。証しだ。今日という日の、この深い、言葉に尽くしがたい経験の証し。戦いの勝者は、自らの武勇を謳う歌を刻まなかった。代わりに、勝利の源であり、喜びの源泉である方への、感謝と賛美を刻んだ。

テントの外では、星々が、とこしえからの約束のように、静かに瞬いていた。明日には、また新しい務めが待っている。しかし今、この静寂の中に、全ての戦いを超えた、確かな安息があった。彼は、油灯を消すことなく、その仄明かりに守られるようにして、深い、安らかな眠りについた。枕元には、乾ききらないインクの匂いが、ほのかに漂っていた。

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