エルサレムの路地は、夕暮れの煙と共に暮れていく一日のざわめきを包み込んでいた。アヒカムは工房の戸を半ば開け、外の空気を深く吸い込んだ。羊の脂と松やに、遠くから運ばれてくる供物の香りの混ざった、都特有の匂いだ。彼の指先には、まだ杉材を削った後の微かなざらつきが残っている。
「父さん、これで良さそうだ」
息子のナタンが、背丈ほどある木像を支えながら言った。それは明日、市場の南の区画に住む商人の注文によるものだ。アシュトレトという名の、異邦の女神の像であった。アヒカムはため息をつき、像の顔の輪郭を指でなぞった。丁寧に磨かれた目には、銀が嵌め込まれている。注文主はさらに金箔を貼るようにと言っていた。
「足元を、もう少し安定させた方がいい」
アヒカムはそう呟くと、道具箱から鑿を取り出した。木を削る音が、薄暗がりの中に響く。かつて彼は、神殿の修復のための格子窓を刻んだこともあった。その木材も、レバノンから運ばれてきた杉であった。今、彼が手にしているこの材木も、同じようにフェニキアの商人が運んできたものだ。高い代金を払い、王の関税を通し、ようやく工房まで届けられた。
「異国の神々を祀ることが、なぜここまで流行るのだろうか」
ナタンがぼんやりと言った。彼はまだ二十歳にならぬ若者で、父の仕事を手伝いながらも、目に映る都の変化に戸惑いを隠せなかった。
「バビロンから、エジプトから、あらゆる国の民が行き交う。彼らが持ってくる金は、我々の生活を支える。そして彼らは、自分たちの神々がここでも祀られることを望む」
アヒカムは答えながらも、自らの言葉の空虚さを感じていた。工房の隅には、先週完成したばかりのバアルの像が置かれている。口元が歪んで笑っているような、不気味な形だ。注文主は喜んで代金を支払い、「この神が商売を繁盛させてくれるだろう」と嬉しそうに持ち帰った。
その夜、アヒカムは一人、屋上に上がった。都の家々の窓からは、灯りがもれ、人々の話し声がかすかに聞こえる。そして彼の目は、自然と北の空へ向かった。そこには無数の星が散りばめられ、銀河の帯が都を優しく覆っている。
彼は幼い頃、父に連れられて野宿をした時のことを思い出した。砂漠の夜空は、今よりもっと星に近く、巨大な天蓋のように感じられた。父はその時、指をさして言ったものだ。
「見よ、アヒカム。あの星々を数えることができる者がいるだろうか。これをすべてお造りになった方は、その名をヤハウェと言われる。我々はこの方の前に、ひれ伏さなければならない」
その声は、まるで昨日聞いたかのように耳に残っている。しかし今、この都では、人々が自分たちで造った木や石の像の前でひざまずき、助けを乞うている。アヒカム自身、その像を造る側の人間だ。矛盾が胸を締めつける。
翌日、市場へ材木を買いに出たナタンが、興奮した様子で戻ってきた。
「父さん、広場で預言者が叫んでいる! エレミヤという者だ。彼、我々のような職人のことを、『愚かだ』と非難している」
アヒカムは手を止めた。エレミヤの名は聞いたことがあった。アナトトの出身で、主の言葉を語るという。しかし、王さえも彼を快く思っていないと噂されていた。
「何と言っていた?」
「こうだ…『諸国の定めはむなしい。林から切り出された木、職人が斧で造ったものにすぎない。銀の箔と金の箔で飾り、釘や槌で動かないように固定する。それはきゅうり畑の案山子のようで、物を言うことができず、歩くこともできない。それを運ばなければならない。それを恐れてはならない。害を加えることも、良くすることもできないのだ』と…」
ナタンは預言者の語調を真似て言ったが、最後の方は声が小さくなった。彼の目は、工房の隅にある未完の像へと向いていた。
アヒカムは黙ってうつむいた。その言葉は、彼の心の内にずっと潜んでいた疑問に、鋭く迫るものだった。確かに、彼が造る像は動かない。運ばなければどこへも行けない。口をきくこともない。しかし人々は、その無言の木塊の前に平伏し、願い事をし、時には生贄さえ捧げる。
「彼はさらにこう叫んでいた」ナタンが続けた。「『しかし主は、まことの神。主は生きておられる神、永遠の王である。主の怒りによって地は揺れ動き、国々はそれに耐えることができない』と…そして、人々が拝んでいるこれらの偶像のことを、『風のように、むなしいもの』と言った」
その言葉を聞いた時、アヒカムの頭に、ある光景がよみがえった。それは去年の冬のことであった。激しい東風が都を襲い、市場の仮設の祠が吹き飛ばされた。中に置かれていた小さなテラピム像は路上に転がり、片腕が折れていた。通行人たちはその像をまたいで通り過ぎ、誰一人として拾い上げようとはしなかった。結局、夜になってもそのままだったので、アヒカムが通りかかって工房に持ち帰った。材質は安いイチジクの木で、大した細工も施されていないものだった。彼は結局、それを炉にくべて、その夜の暖を取ったのだ。
木の一部を薪として火にくべ、残りの部分で神を造り、それにひれ伏す――預言者の言葉が、その行いの矛盾を突いてくるようで、アヒカムは居ても立ってもいられない気持ちになった。
数日後、注文主がアシュトレトの像を受け取りに来た。肥えた商人で、指にはめたいくつもの宝石の指輪が、工房の薄暗がりできらめいていた。
「素晴らしい! これなら我が家の祭壇の中央を飾るにふさわしい」
商人はそう言うと、さっそく手下たちに像を運ばせた。アヒカムは代金を受け取りながら、ふと尋ねた。
「この像に、どんな願いをかけられるのですか?」
商人は嬉しそうに答えた。
「願いと言えば、やはり商売の繁栄だ。それに、妻がまた子どもを産めるようにとも。我々が以前住んでいた地では、この女神は豊穣を司ると言われていた。エルサレムに来てからも、守り続けてくれるだろう」
「でも…この像は、私が二週間かけて彫った木片に過ぎません。それがどうして、人の運命を変えられましょうか」
口をついて出た言葉に、アヒカム自身が驚いた。商人の表情が曇った。
「職人さん、それは何だ? お前が造ったものが無価値だと言うのか? ならば、なぜ造った?」
「いえ…ただ…」
アヒカムは言葉に詰まった。商人は軽蔑するような鼻息を一つ漏らし、ゆっくりと言った。
「聞け、老人よ。この世で重要なのは、何を信じるかではない。どの神が真実かなど、誰にも分からない。重要なのは、信じる行為そのものだ。人は安心を求める。目に見える形で、手で触れられるもので、自分たちの願いを託したいのだ。それが木であろうと石であろうと、関係ない。お前の仕事は、その形を与えることだ。それ以上でも、それ以下でもない」
商人は去っていった。アヒカムは工房の戸口に立ち、その背中を見送った。ふと、彼が言った「目に見える形」という言葉が胸に引っかかった。
その夜も、アヒカムは屋上に上がった。空には三日月がかかり、星々がまたたいている。彼は遠くに、神殿の丘の輪郭を認めた。そこには、目に見えない方が住まわれている。かつてモーセに「わたしは『ある』という者である」と告げられた方。そしてその方は、いかなる像を造ること、いかなる形に象ることも固く禁じられた。
目に見えない方を信じることは、確かに難しい。人は形を求める。手触りを求める。しかしアヒカムがこの数十年で学んだことは、形あるものは必ず壊れるということだった。彼が造った最も精巧な像も、火事にあえば灰になり、洪水に遭えば流される。嵐が来れば倒れる。それでも人々は、その儚いものにすがり続ける。
一方で、目に見えないもの――風の音、星の光、そして心に響く言葉。それらは形がないからこそ、壊れない。預言者の叫びは、彼の胸の中で繰り返し響いていた。
「人はみな、畜類のように無知だ。すべての銀細工人は、偶像によって恥を受ける。鋳た像は偽り。そのうちに息はない。それらはむなしいもので、懲りめのわざ。その滅びの時、それらは絶える」
アヒカムは工房に降りていった。炉の火がゆらめき、壁に奇妙な影を投げかけている。道具が散らばった仕事机の端に、小さな木片が置いてあった。それはアシュトレトの像を彫る前に、試しに削ったものだ。彼はそれを手に取り、炉の火にかざした。
暖かい炎が木肌を照らし出す。彼はその木片を、じっと見つめた。そしてゆっくりと、炉の中へ落とした。木はパチパチと音を立てて燃え始め、やがて明るい炎となって消えていった。
「父さん?」
背後からナタンが声をかけた。彼もまた、眠れなかったのだろう。
アヒカムは振り返らずに言った。
「明日から、祭壇の飾り枠や、神殿の修復の仕事だけを請け負おう。もう偶像は造らない」
ナタンはしばらく黙っていたが、やがて静かにうなずいた。
「分かった」
外では、夜風が通り過ぎていく。それは形がなく、目に見えないが、確かにそこにある。アヒカムは、その風の音に耳を澄ませた。まるで、遥か遠くから、永遠の山々を越えて、言葉にならない響きが届いてくるかのようだった。彼はかつて父から聞いた、あの名を、心の中で繰り返した。
主はまことの神。
主は生きておられる神。
永遠の王。




