聖書

コリントへの御霊の風

**知恵と御霊の示すもの**

コリントの町は、エーゲ海の輝く波に面した活気ある港町であった。人々は商業と学問で栄え、様々な哲学や思想が行き交う場所だった。そんな町に、パウロは神の福音を携えてやって来た。しかし、彼は雄弁な言葉や人間の知恵を頼みとはしなかった。彼の心には、ただ一つの確信があった——神の力こそが人々を救いに導く、ということである。

ある日、パウロはユダヤ人の会堂で教えていた。学者たちは彼の言葉に耳を傾けながらも、どこか懐疑的だった。「この男は、どこかで学んだ哲学者か。それとも、新しい教えを広める詭弁家か。」しかし、パウロの語り口は驚くほど簡素で、飾り気がなかった。

「兄弟たちよ、私があなたがたのところに行ったとき、私は優れた言葉や知恵を用いて、神の証しを語ろうとはしませんでした。」パウロは静かに言った。「なぜなら、私はあなたがたの間で、イエス・キリスト、しかも十字架につけられたキリスト以外、何も知るまいと心に決めていたからです。」

会堂の中には、ギリシャ哲学に精通した者もいた。彼らはパウロの言葉に眉をひそめた。「十字架の愚かさなど、何の価値があるというのか。私たちは理性と論理を重んじるのだ。」しかし、パウロは彼らの反応を気にすることなく、語り続けた。

「私は弱く、恐れおののいていました。私のことばも宣教も、説得力のある知恵のことばによらず、御霊と力の現れによるものでした。それは、あなたがたの信仰が人間の知恵によらず、神の力によるものとなるためです。」

すると、会堂の隅で貧しい身なりの男が目を輝かせた。彼は学問などなく、ただ日々の糧を得るのに精一杯だった。しかし、パウロの言葉は彼の心に深く刺さった。「神は、この世の知者が軽んじるものを選ばれたのか……。」

パウロは続けた。「私たちは、隠された神の知恵を語ります。この知恵は、この世の支配者たちがだれひとり知りませんでした。もし知っていたら、栄光の主を十字架につけはしなかったでしょう。」

空気が震えたように感じられた。神の知恵は、人間の理性を超えたところにある——パウロの言葉は、それを悟らせた。

「しかし、神は御霊によってそれを私たちに啓示してくださいました。御霊はすべてのことを探り、神の深みにまで及ぶからです。」

その瞬間、会堂にいたある女性の目から涙がこぼれた。彼女は長年、人生の意味を求め、哲学書を読みあさっていたが、満たされることはなかった。しかし今、パウロの言葉が彼女の魂に触れた。「神の御霊が、私に真実を教えてくださる……。」

パウロは最後に力強く宣言した。「生まれながらの人間は、神の御霊に属することを受け入れません。それらはその人には愚かなものだからです。また、それを悟ることができません。なぜなら、御霊のことは御霊によってわきまえるものだからです。」

その日、多くの者が心を動かされた。学者も、貧しい者も、かつて神など信じなかった者も、御霊の声に耳を傾けた。彼らは悟った——神の知恵は、人間の知恵よりも高く、十字架のメッセージこそが、真の力であることを。

こうして、コリントの地に御霊の風が吹き、人々の心に神の国が刻まれていった。パウロは、自分が用いられた器にすぎないことを知っていた。真の働き手は、聖霊その方であった。

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