## **イエスと賢い律法学者**

エルサレムの神殿の境内は、祭りの時期で大勢の人々で賑わっていた。商人たちの声、祈る人々のささやき、祭司たちの教えが混ざり合い、神聖な空気が漂っていた。その中を、イエスは静かに歩み、群衆に教えを説いていた。

すると、ある律法学者が近づいてきた。彼はサドカイ人やファリサイ派の人々がイエスを試そうとして失敗するのを見て、興味を抱いた。彼は真摯に神の道を求めていたため、イエスの知恵に心を打たれ、ひとつの質問を投げかけた。

「先生、あらゆる戒めの中で、どれが最も重要でしょうか？」

群衆のざわめきが一瞬止んだ。人々は息をのんで、イエスの答えを待った。イエスはその学者の目をじっと見つめ、深い慈愛と威厳をもって語り始めた。

「最も重要な戒めはこれである。『聞け、イスラエルよ。主なる私たちの神は、唯一の主である。心を尽くし、魂を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』」

イエスの声は澄んでいて、神殿の壁に反響した。その言葉は、神の民の根本的な信仰を表していた。しかし、イエスはそこで止まらなかった。

「第二の戒めもこれと同じように重要である。『あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい。』この二つにまさる戒めはほかにない。」

律法学者は深くうなずき、心から感銘を受けた。彼はこれまで、律法の細かい解釈に囚われていたが、イエスの言葉はすべてを簡潔にまとめ、神の御心の核心を突いていた。

「先生、おっしゃる通りです。」と彼は答えた。「神は唯一であり、ほかに神はありません。心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして神を愛し、また隣人を愛することは、すべての焼き尽くす供え物や犠牲よりも大切なことです。」

イエスは彼の理解力を見て、喜びを感じた。

「あなたは神の国から遠くない。」とイエスは言った。

この言葉を聞いて、周りの人々は静かに考え込んだ。もはや誰もイエスに質問しようとする者はなかった。その知恵と権威ある言葉は、すべての人々の心に深く刻まれたのである。

こうして、イエスは神殿で神の愛と隣人愛の大切さを教え、人々の信仰を真の意味で目覚めさせたのだった。