聖書

「祝福と呪いの山:エバル山とゲリジム山の物語」

**申命記27章に基づく物語**

ヨルダン川の西側、モアブの平野にイスラエルの民は集まっていた。長い荒野の旅を終え、ついに約束の地カナンが目前に広がる中、モーセは民を招集した。その日、太陽は燦々と輝き、民の顔には期待と緊張が浮かんでいた。

モーセは長老たちと共に民の前に立ち、深みのある声で語り始めた。「主があなたがたに与えられる地に入ったとき、あなたがたはすぐに、エバル山に大きな石を立て、それを漆喰で塗らなければならない。」

民は息を飲んだ。エバル山——それは祝福と呪いの山として知られていた。モーセは続けた。「そして、その石の上に、この律法のすべての言葉を記しなさい。これは、あなたがたがヨルダン川を渡り、主が約束された地に入るためである。」

石は滑らかで大きく、漆喰が塗られると、白く輝いた。祭司たちは慎重に神の言葉を刻み、民はその作業を固唾を呑んで見守った。

その後、モーセは民に命じた。「あなたがたは、シメオン、レビ、ユダ、イッサカル、ヨセフ、ベニヤミンの部族は、ゲリジム山に立って民を祝福しなさい。ルベン、ガド、アシェル、ゼブルン、ダン、ナフタリの部族は、エバル山に立って呪いを宣言しなさい。」

民は静かにうなずき、それぞれの部族が指定された山に向かった。ゲリジム山の斜面には緑が茂り、祝福の象徴のように穏やかな風が吹き渡った。一方、エバル山は岩肌がむき出しで、厳かな雰囲気に包まれていた。

レビ人たちは大声で宣言した。「『主の律法の言葉に聞き従わない者は呪われる』と、民は答えよ!」

すると、エバル山に立つ者たちは一斉に応えた。「アーメン!」

その声は谷間に響き渡り、鳥たちが一瞬にして飛び立ったように見えた。

レビ人たちは続けて、神の戒めに背く行為を一つひとつ挙げ、それぞれに「呪われる」と宣言した。偶像を拝む者、父母を侮る者、隣人の地境を移す者、盲人を惑わす者、寄留者や孤児、寡婦の権利を侵す者——すべての罪が明らかにされ、民はその一つひとつに「アーメン」と答えた。

ゲリジム山からは祝福の言葉が響いた。「主の戒めを守り、それを行なう者は祝福される!」

民の心は引き締まった。この瞬間、彼らは神の前に立つ者としての責任を改めて自覚した。太陽が傾き、山々が長い影を落とす中、儀式は静かに終わりを告げた。

モーセは最後に民を見渡し、力強く語った。「今日、あなたがたは主の民として選ばれた。この律法を心に刻み、子孫に伝えなさい。祝福と呪い——あなたがたの選択が未来を決めるのだ。」

民は深くうなずき、それぞれの宿営に帰って行った。その夜、多くの者が神の言葉を思い返し、約束の地への決意を新たにしたのである。

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