聖書

約束の地へのまなざし

その日は、砂漠の風が一段と熱を帯びていた。ヨルダン川の東、モアブの平原に張られた宿営の片隅、一本の枯れかけたアカシアの木陰で、老いた指導者は腰を下ろしていた。ヨシュアと呼ばれるその男は、目を細めて西の方角を眺めていた。川向こうには、うっすらと青い山並みが見える。約束の地だ。

若い者たちが数人、彼の周りに集まってきた。新しい世代である。彼らは荒れ野の旅をほとんど知らず、エジプトの苦役の記憶も薄かった。ただ、目前に広がる地への憧れと、そこに潜むかもしれぬ戦いへの不安で胸をふくらませている。

ヨシュアは深く息を吸い、土の匂いと共に、遠い記憶を胸いっぱいに吸い込んだ。そして、ゆっくりと語り始めた。

「あの日も、こんなにも太陽が灼きつける日だった」

彼の声は、砂嵐に削られた岩のようにざらりとしていた。

「わたしたちは、シナイの山のふもとにいた。三日月形に広がる平原に、天幕がびっしりと立ち並び、人と家畜のざわめきが絶えなかった。しかし、ある朝、すべての音が吸い込まれてしまったような静寂が訪れた。空気が張りつめ、皮膚に粟立つような重い気配が、山全体を包んだ」

ヨシュアは自分の腕を見つめ、老人の皺の中に、今もその戦慄が潜んでいるかのようだった。

「山は、濃い黒雲に覆われた。その雲の奥底から、暗闇よりも深い闇が渦巻いているように見えた。そして、轟音が始まった…というより、音そのものが形を持ち、地を揺さぶり、我々の骨の髄までを震わせた。それは、ラッパの響きのように鋭く、しかもとてつもない大地のうなりを伴っていた。人々は皆、天幕の入口で震え上がり、子供でさえ泣くのを忘れて見上げていた」

語り手自身の目に、あの光景がよみがえっていた。彼の言葉は、整然とした説明ではなく、断片的な感覚の蘇りとして紡がれていった。

「やがて、山の頂が、真っ赤な炎に包まれた。しかし、それは木々を燃やす火でも、松明の揺らめきでもなかった。まるで、山そのものが、内側から光る熔岩のように輝きだした。煙は炉の煙のようにもうもうと立ち上り、空高く渦を巻いた。その中から、閃光が走り、雷鳴がとどろいた。そして…」

彼は言葉を切った。適切な言葉を見つけられないもどかしさが、かえってその体験の途方もなさを物語っていた。

「そして、声が聞こえたのだ。文字や言葉を超えた響きとして。それは我々一人一人の胸の内側で、共鳴するように響いた。畏れ。底知れぬ畏れ。しかし、それと同時に、圧倒的な‘在る’ことの確かさ。我々を縛っていたエジプトの奴隷の鎖も、この荒野の飢えや渇きの苦しみも、すべてが小さな塵に思えるほどに、巨大な‘まこと’が、山に臨在していた」

木陰の若者たちは、息をのんで聞いていた。彼らの目には、シナイの砂岩の砦や、遠くの葡萄畑の夢がちらついていたが、今、その風景の上に、もう一つの眩くも恐ろしい山の幻が重なって見えるようだった。

「あの声が告げた言葉…十の言葉。それを、我々は石の板に刻み付けた。しかし、それ以上に、あの火の中からの声そのものが、我々の魂に刻み付けられたのだ。主は、形を持たれた。彫像や偶像のように、手で触れられる形では決してない。‘声’として。‘契約’として。‘道’として。あの炎と暗黒の中に、いかなる像も見なかった。ただ、語りかけてこられるお方の圧倒的な‘臨在’だけを感知した」

ヨシュアの声が低くなり、迫るようになった。

「だから、よく覚えておけ。川を渡り、町々を獲り、葡萄や無花果を収穫する日が来ても、決して忘れるな。石や木、銀や金に、あの火の中のお方を封じ込めようとしてはならない。空の鳥、地の獣、水の魚の形を刻み、それらを拝むことが、どんなに愚かで危険なことか。主は、あなたがたを炉の鉄から、エジプトという熔鉱炉から取り出された。あなたがたご自身が、生ける神の証人なのだ。それを、死んだ像に置き換えてはならない」

風が少し強まり、砂が細かく舞い上がった。ヨシュアは、遠くに広がる約束の地をもう一度見つめた。彼の目には、喜びよりも深い憂いが浮かんでいた。

「もしも…もしもあなたがたが忘れ、主の声に耳を貸さず、目に見えるものを追い求め、周りの民の慣習に染まっていくならば」

彼の言葉は、荒れ野の風化した岩のように、乾いて重かった。

「その地から引き抜かれ、風に散る籾殻のように、国々に散らされてしまうだろう。そして、そこで仕えることになるものは、人の手で作られた、目は見えず、耳は聞こえず、口もきけない木や石の神々となる。その日、あなたがたは初めて、自分たちが何を失ったかを悟る。苦しみと悔いの中であの方を求めれば、ついに見いだすだろう。なぜなら、我らの神は、憐れみ深い方だからだ。だが、その道のりは、長く、苦いものとなる」

沈黙が流れた。ただ、砂丘を渡る熱風の音だけが聞こえる。

「今日、わたしがあなたがたに語るこれらの定めと法則。それは、あなたがたを縛り付ける重荷ではない。あなたがたが、あの火の中から語りかけられた生ける神の民として、どう生きるべきかを示したものだ。それは、大きな知恵と識別力として、周りのすべての民の目に映る。彼らは、こう言うだろう。‘この偉大な国民は、確かに知恵があり、賢明な民だ’と。我らの神にこれほど近くいて、その声を聞くことができる民が、ほかにどこにあるだろうか」

ヨシュアはゆっくりと立ち上がった。骨の節々が軋む音がした。彼の背中は曲がっていたが、目だけは、約束の地を見据えて曇りがなかった。

「すべてを覚えておきなさい。荒れ野の旅路を。天から与えられたマナを。岩から湧き出た水を。そして、シナイの山を覆ったあの暗黒と、その中に輝く火を。それを、あなたの子供たちに、孫たちに、語り継ぎなさい。あなたがたが、石の家に住み、満ち足りた時こそ、心せよ。栄誉も、繁栄も、すべては、あの火の中からあなたがたを選び、約束を守ってくださる方から来ることを忘れずにいるために」

彼は、そっとアカシアの幹に手を触れた。もうすぐ、この仮の宿営を引き払い、いよいよあの川を渡らなければならない。新しい戦いが、新しい誘惑が待っている。

「主は、天においても地においても、神はほかにはない」

老いた戦士のささやくような声は、熱風に消えそうになりながらも、確かに若者たちの心に届いた。それは、石の板に刻まれた律法の条文以上のものだった。一つの民の、血と記憶と悔いと希望に満ちた、長い物語の核心だった。

夕陽が傾き、平原に長い影を落とし始めた。ヨシュアは、再び西を眺めた。やがて彼らが足を踏み入れるその地は、乳と蜜の流れる場所であると共に、信仰が試される炉でもあるのだ。彼は、この若者たちが、形あるものに心を奪われることなく、あの「声」を聞き分ける民であり続けられるように、と静かに祈った。そして、その祈りは、数千年の時を超え、今日を生きる我々の胸の中にも、微かに、しかし確かに響き続けているのである。

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