潮風は、塩と熱せられた瀝青、それに遠くから運ばれてくる没薬の甘い香りを混ぜ合わせ、ティルスの港に満ちていた。陽は灼熱の白さで海面を叩き、無数の帆がそれに応えるようにきらめいていた。船だ。どこまでも船だ。賽ドの港から、エジプトのナイル河口から、更には遠い西方の、言葉も知らぬ人々の土地からさえ、船はやって来た。積み荷は銀、鉄、錫、象牙、そして数えきれぬほどの紫色の布。その紫色こそが、この島都の富の源泉であり、誇りであった。染め工たちが夜を日に継いで貝から一滴ずつ絞り出すその色は、王侯のみが纏うことを許された。世界はティルスの紫を求めてやまず、世界の富がここに流れ込んだ。
その富が築いた城壁は海に向かってそびえ、太陽の下で白く輝いていた。城壁の上を歩けば、眼下に広がる二つの港——一つは外洋に開かれた「シドン港」、もう一つは内側に守られた「エジプト港」——が、まるでこの町が海を手懐けたかのように、大小様々な船で埋め尽くされているのが見えた。町の中は迷路のようで、細い路地にはあらゆる国の言葉が飛び交い、商品が山積みにされ、金貨の音が絶え間なく響いていた。ここには王はいない。商人たちの会合が実質的に町を治め、その判断は海流のように速く、また海流のように容赦がなかった。
老いた船頭のエルアザルは、そんな喧騒から少し離れた埠頭の端で、繋いだ自分の小さな交易船の帆を整えながら、ふと目を細めた。西の水平線に、何か黒い点が群れをなして近づいている。鵜の大群か、と一瞬思ったが、そうではなかった。帆の形が違う。ギリシアの快速船か、それとも……彼の胸に、若い頃に祖父から聞いた古い歌がよみがえった。『シドンの誇り、海の商人となったティルスよ、お前は潮の満ち干で富を積んだ。だが潮は、すべてを運び去るものでもある』 意味はよくわからなかったが、不吉な響きだけは覚えていた。彼は首を振り、その考えを払いのけた。心配無用だ。ティルスは不沈の島だ。諸国の王でさえ、この町の商人に笑顔で頭を下げるではないか。
しかし、その黒い点は確実に大きくなり、数も増えていった。やがて港の見張り台から、鋭いラッパの音が一吹き鳴らされた。それは非常時を知らせる音ではなかったが、どこか緊迫した響きを帯びていた。通りすがりの若い香料商人が足を止め、空を見上げた。「あれは何だ? 新しい交易船団か?」
「交易船団にしては武装が過ぎる」とエルアザルは呟いた。船体から冷たい金属の光がちらつく。彼の経験が警告を発していた。
それからの日々は、悪夢のように過ぎていった。黒い点の正体は、アッシリアの大王の艦隊ではなかった。より恐ろしいもの、名も知れぬ、海の果てから現れた略奪者の大船団だった。彼らは最初、沿岸の小さな入り江に現れ、ティルスの属邑を次々と焼き払った。ティルスの商人会合は直ちに艦隊の派遣を決めた。最新の三段櫂船、熟練の水夫、豊富な資金による傭兵部隊。誰もが勝利を確信していた。
海戦は外洋で起こり、三日三晩続いたという。遠くで燃え上がる炎を、ティルスの城壁からも見ることができた。やがて帰ってきたのは、旗を失い、帆が裂け、跡形もなく打ちのめされた数隻の船だけだった。生き残った水夫の一人が、震える声で語った。敵は海の悪魔のように戦い、ティルスの艦隊を包囲し、一つ残らず沈めたか拿捕した、と。
海の道が断たれた。最初に消えたのは、遠方からの船だった。そしてエジプトからの穀物船も。次にシドンやアコから来る日常の物資も。港は見る見るうちに空虚になっていった。積み荷はなく、出ていく船もない。ただ無言でゆらぐ海水だけが、打ち寄せては引いていく。富の象徴であった紫色の布は、今や倉庫に眠ったまま埃を被り、それを染め出す貝も、もはや漁に出す船がなかった。
恐怖は、海からの包囲が完全なものとなった時に、飢えという形で訪れた。商人たちの金庫はまだ宝石で満ちていたが、麦一粒と交換することはできなかった。かつて賑わった市場には、金貨を握りしめたまま倒れる者、幼子に与える水さえ求めてもがく母親の姿があった。潮風は相変わらず吹いていたが、今やそれは死の腐臭を運ぶだけだった。
エルアザルは空の船倉に座り、遠くの水平線を見つめていた。彼の耳に、あの古い歌の続きが、はっきりと聞こえてくるようだった。『シオンにいます主がこう仰せられる。「潮の満ちる所まで広がったこの町、誇り高き町に、主はご自身の栄光を損なう者として立ち向かわれる。主が海の上に礎を据え、潮の満ち干を定められたように、主はこれを打ち砕き、その誇りを塵に帰される。やがて七十年、ひとつの王の寿命の後、主はティルスを再び訪れ、かつてのように諸国と商いをすることを許される。しかしその収益は主の前に聖なるものとされ、たくわえられることなく、主を畏れる者たちの豊かな食物とみごとな衣服となるであろう」』
彼は目を閉じた。誇り。あらゆる富と技術と巧みな交渉で築き上げた、海の女王としての誇り。それは確かにここにあった。そして今、その誇りが、塵のように崩れ落ちようとしている。これは単なる略奪者の襲撃ではなかった。もっと大きな、計り知れない意志の訪れだ。海をも支配する、あの方の。彼は震える手で、乾いた唇をなめた。悔い改め、という言葉さえ、この空腹と絶望の中では色あせてしまう。ただ、すべてを掌握する方がおられ、この町の運命も、その御手の中にあるということだけが、暗闇の中で微かに光る一点の確信として、彼の心に残った。
港は静まり返り、かつては世界に冠たれた紫色も、夕闇に溶けて見えなくなっていた。潮は、ゆっくりと、確実に満ちてきていた。




